マンボウってさ、水槽の中で泳いでいると
ガラスの壁にぶつかってしまうんだって。
だから ぶつかって怪我しないように
ビニールのフェンスを水槽の内側に垂らしているんだって。

へぇー、そうなんや。
ガラスにぶつかるなんて ぼ~っとしてる魚なんやなぁ。

その、ぼ~っとしてるのを見て、ぼ~っとしたいやん?
なんも考えんと。

---

水槽の中のマンボウは ゆっくりと泳いでこちらに向かってきては
ビニールの壁に柔らかくはね返されて 反対の壁に向かって泳いでいく。

その 何にも考えていないような動作と けだるそうな雰囲気の魚に向かって
手を差し出しているミサトさんの横顔を見ていた。
彼女の動作もまた ゆっくりとしていて 時間の流れが遅くなってしまったような錯覚が起こる。

のんびりと泳ぐマンボウを眺めるまでもなく
睡眠不足の頭と体からは 完全に力が抜けてしまっていた。

結局 昨晩はほとんど眠ることがなかった。
朝方、ほんの少し眠っただけで 後はずっと目を覚ましていた。
ぼんやりとした頭で 昨晩のことを思い出してみる。

耳に残っているのは 彼女の小さく吐き出すため息。
それと 時折、苦しそうにあえぐ声。
もしかしたらそれは 私自身の声だったかもしれない。

言葉は あってもなくてもどうでもよかった。


部屋の灯りを消して それぞれの布団に入ってから
私たちは少し話をした。
他愛もない話だったと思う。
しばらくしたら 話も途切れ あとはもう眠るだけだった。

窓の外が少し明るいのは 月と星が出ているからなのか
街の明かりがここまで うっすら届いているのかわからない。
海岸までは少し距離があったけれども
部屋が静かすぎるから 波の音がここまで聞こえてくる。

ミサトさんは何も言わなかったが 起きているようだった。
私もなかなか寝付けずにいた。

これまでのことを いろいろと思い出してみる。
今、ひとつの部屋で2人きりで眠りにつく状況を
彼女は「こんなところまで来てしまった」と言うかもしれない。

でも私には 何が起きても絶対に彼女は拒まないという自信があった。
京都の1件の後 明らかにミサトさんの態度が変わった。

出会った当初に感じたような 怖さと
私を切ろうとした、容赦ない刃物のような鋭さはなくなり
そばにいて 心地いいという感覚が残った。


そろそろと自分の布団を抜け出し
そっとミサトさんの布団をめくってみた。

彼女は私のほうへ腕を差し出し 私を迎え入れてくれた。
一緒の布団に入って 抱き合うと
あとは 何も考えられなくなった。

完全に彼女にリードされ されるがままになった。
彼女の手と指先、唇、舌、肩やつま先や膝頭が
私の体に触れると もうどうしようもなく震えた。

私たちは 何も話さなかった。
声は出ていたと思うが 言葉にはあまり意味はなかった。

「好きだ」
「私も」
「すごく好き」
名前で そっと呼びかけたかもしれない。
もしかしたら「愛してる」という言葉も出たのかもしれない。
でも そんな言葉を交わさなくても わかっているから。


暗がりのなかで 彼女の目をまっすぐに見る。
見ると すぐに近づきたくなって 唇を寄せてしまう。
その唇を彼女の全身に這わせると また顔を見たくなる。
今度は私が下になり 彼女が私の全身に触れる。
まるで際限がない。

ここまでくると 体のパーツを感じるというよりも
やはり全身で感じるもののようだとわかった。
彼女の体の全部を同時に感じたいという 訳のわからない感覚も出てきた。

そして 私から彼女に触れることもあるが
どちらかというと 彼女のほうが積極的だったと思う。
はっきり言えば 私の動作はすごくぎこちなくて
彼女は初めから なめらかに動いた。


前にミサトさんから こっそり教えてもらったことがある。
「これはトップシークレットなんやけど・・・私、左の胸のほうが右のほうより大きいねん」
「え!そんな違いあるの?」
「うん。たぶん触ったらわかるよ」
その確認作業も この日に終えた。

---

ここで・・・
考えてみてください。
彼女はノンケ女子です。
私は自覚はまだなかったけれどもビアン女子です。
ノンケ女子に ほぼ完全リードされるビアン女子。
この状況を どう説明すればいいでしょう?






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2012.01.10 Tue l 揺さぶられる日々 l コメント (2) トラックバック (0) l top
時間には遅れてしまったけれども
私が約束どおり京都まで来たということで
ミサトさんの心は落ち着いてきたみたいです。

私も悩みすぎで 胸がキリキリ…という状態から抜け出した模様。

このまま平和に時間が過ぎていれば
ビアン女子とノンケ女子の 平和なカップルだったはず。
紆余曲折、右往左往しても 最後には一緒にいようとしていたはず。

--- 

部活の練習帰り ミサトさんと電車が来るのを待っていると
○○行きの特急列車がホームに入ってきた。

「あれ、なんて読むんだっけ?」(私は行き先の読み方を知らなかった…)
「かしこじま、だよ。電車で行ける島だよ」
「えっ?賢島って本当に島なの?」
「そう。行ってみたい?」
「うん。行きたい」
「じゃ、行こっか!」
「行こう!!」

話が決まると すぐに特急券を買い 宿の予約をした。

11月中旬には大学祭がある。
春の大学祭では私たちの所属していた部は
たこ焼き屋の屋台を出すことに決まっていたけれど
秋の大学祭は何もせず 部活も休みになるので
その日に賢島へ行くことにした。

賢島にはマンボウのいる水族館があって
旅行の2日目はそこへ行くことにした。

前からミサトさんは マンボウを見たいと言っていた。

「マンボウってさ、水槽に入れとくと、泳ぎながらガラスにぶつかってしまうんだって。
 だからぶつからないように、水槽の内側にビニールのフェンスを入れているらしいよ。」

「ええー、そうなん?ぼ~っとしてる魚なんやなぁ~」

「その、ぼ~っとしてるところを見て、ぼ~っとしたいやん」

ミサトさんって 時々よくわからない・・・


11月の晴れた日、賢島行きの特急に乗り込んだ。
初めての2人きりの旅行。
揃いすぎているシチュエーション。

・・・だったけれども。

1日目の思い出は膀胱炎になりそうだった、ということです。
なんでしょうかね、緊張しすぎて
昼の間、「トイレに行きたい」って言えなかったんです。
まさかのこんなところで ただのアホです。

初日 賢島で特急を降り バスに乗り換えて英虞湾周辺を回りました。
11月の海水浴場は観光客も地元の人も誰もいなくて
2人の貸切状態でした。
砂浜をキャッキャキャッキャと走り回ったり
海に向かって石を投げる姿を もう1人が写真に収めたり、とか。
もう まさに 揃いすぎているシチュエーション。

それなのに・・・
夕暮れの頃も過ぎ そろそろ宿へ向かうバスに乗らないとね、というときには
既に体が限界となっておりました。
その、つまり、膀胱炎なりかけの話です。
バスに乗ったはいいが 揺れるたびにウッとなっては耐えました。

宿に着き 部屋に入ったとたんにミサトさんを放置し
トイレに駆け込んだことは言うまでもありません。

そんなムードぶち壊しの事態に 顔を赤くしたり青くしたりするのは私だけ。
ミサトさんは いたって自然体でした。
この旅行中 彼女は どの時よりも 肩の力を抜いているように見えました。

部屋で夕食をいただき 温泉に浸かって部屋に戻ると
布団が二組 敷かれていました。

昼に砂浜を走り回ったりしたから 体も少しだるくて
すぐに眠ってしまいそうです。

「お休みー」私たちはそれぞれ自分の布団に潜りこみました。



さて 私たちはこの後 どうなるでしょう?

(1)夜通し話し続けて 寝坊してしまい 水族館はパス

(2)そのまま ぐっすり眠って まさかの翌朝を迎える

(3)その他(詳細を記述しなさい)


皆様の忌憚ないご意見をお待ちしております。


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2012.01.08 Sun l 揺さぶられる日々 l コメント (0) トラックバック (0) l top
生きてるから空気を吸うだけ、という歌があった。

空気を吸うだけだから
切なくないし 傷つかないし 悲しくもない という歌で

ミサトさんと付きあっているときは
この歌を自分の指針書にしようと思っていたくらい。
2人の結果がどんなことになろうと 切なくないし傷つかない。悲しくない。

---

11月1日の午後3時に 京都に来て とミサトさんに言われたら
そりゃ行くしかないよね。
バイトさぼってでも 行くしかないよね。

でも本当のところは ずっと迷っていました。
行くつもりで家を出たけれども 京阪電車に乗り込むときも
平等院に近い宇治駅に着いたときも ずっと迷いました。

今の私なら きっと 30分前には平等院に着いていて
午後3時に彼女が来たら
「待ってたよー」と言って 茶だんごを差し出して
「まぁ食べて。食べたら京都観光やで。夜はもちろん先斗町(ぽんとちょう)やで」
って言って
絶対に彼女をあったかく迎えます。

当時の私には まったくそんな余裕がなく
行くのか、行かないのか
ミサトさんは私のことを切るのか、切らないのか
そんなことばかり考えて 思い詰めていて
常に ギリギリの状態だったように覚えています。


宇治駅から平等院まで歩くときには さすがに
もうここまで来たんだからと 心は決まっていました。

まだ約束の時間には早いから ゆっくり歩いて行こう。
午後3時ちょうどに着いて ミサトさんに会ったら何て言おう。
「ちゃんと来たでしょ」とか?

ほくそ笑みながら歩いていると 声をかけられました。
定年退職後に 京都観光を楽しんでいるような1人の男性でした。
平等院を観光した帰り 宇治駅までの道がわからなくなったらしく
駅までの道を尋ねられました。

口で説明しても おじさん、わからなそうだし
今から駅まで案内してあげて それから戻っても3時には間に合いそうだから
駅までご案内しますよ、と言って、男性と一緒に駅まで戻ることになりました。

ところが おじさんが歩くのが遅い。道端で写真撮影なんぞしている。
おじさん!いいから!早く!!

せっつきたいのを我慢し どうにかこうにか駅までたどり着いたら
記念に写真を1枚撮らせてください、と言われた。

いやっ…そのっ…記念撮影なんかしている場合じゃないし。
いいですからいいですから!ほんとにいいですから!と言ってるのに
ニコニコしたおじさんには通じず。
人を待たせてる、って言えばいいものを 断ることもできずに
固まった笑顔で 写真におさまるアホな私。

やっとおじさんから解放され 慌てて駅から平等院まで走る、走る。
拝観料を払って中へ入り 彼女に言われた鳳凰堂に着いたときには
約束の午後3時をとっくに回っていました。
ちょっと遅れました、とは言えないくらいの時間の遅刻。

そして その場所にミサトさんはいませんでした。
あたりを見回してもいない!
走りまわって探してみても いない!

慌てました。激しく後悔しました。
他の人に構わず ミサトさんのことだけを考えていればよかった!

泣きそうになりながら 探し回って
ああそうだ、帰ろうとして駅まで歩いているのかもしれない、と思いつき
平等院を飛び出しました。

駅まで夢中で走りました。
もしこのまま見つけられなかったら
私たちはいったい どうなってしまうんだろう?

駅に近いところまで来たときに
見覚えのある後ろ姿が目に入りました。
何も迷うことなく 彼女の肩に後ろから触れました。

突然、後ろから肩を叩かれたら驚くはずなのに
ミサトさんは ゆっくり振り返ったような気がします。

そのとき 彼女は笑っているようでも 怒っているようでもなく
かといって驚いているふうでもなく
妙な表情をしていました。

私はといえば 今にも嬉し泣きしそうな顔で
ミサトさんを驚かせてやろうという いたずら好きの子どもがするような
そんな顔をしていたと思います。

ミサトさんは小さく、ああ、と言っただけ。
私は走り続けたから 息切れのため、声も出せず。

「せっかくだから 鳳凰堂を見ていく?」
ミサトさんは 私が今 宇治駅に着いたと思ったらしい。
今度は2人でゆっくり歩いて 平等院へ戻りました。

受付で拝観料を払おうとすると 私の顔を見た受付のおばちゃんに
「あんた、さっき入ったでしょう? お金はもういいから」と言われました。
ミサトさんは怪訝そうな顔をしていました。

「ああ、私は遅れたけど鳳凰堂に行ってたの」
ここは ちゃんと言っておかなければいけない…

「時間どおりに鳳凰堂に着くはずだったんだけど
道を聞かれて駅まで一緒に行ってあげて
それで急いで戻って、探したんだけど 見つからなかったんだよ。
もしかしたら帰ってしまったかもって駅まで戻ったんだよ。
もう何往復したか わからないよ」

ミサトさんが やっと笑いました。
鳳凰堂の中も見たりして 観光らしくなりました。

その後 ご飯を食べたのか どうやって帰ったのか などは
あまり覚えていません。
いつもどおり どこかの駅で「じゃあまたね」と言って
それぞれの家に帰ったんだと思います。


約束の時間には遅れてしまったけれども
彼女の投げたサイコロの目が
私と彼女の繋がりを決める答えであって
それが彼女の求めている結果だったら 私も嬉しい。


帰り道の会話で ひとつ思い出したのは
私が約束の時間に来なかったことで 彼女は
「○○さん(アルの名前)の疑似体験ができた」と言いました。
「何、疑似体験って?」
「私があなたを切ろうとしたときに あなたが感じたことの疑似体験」

ああ、それで。
初めて納得がいきました。
駅の近くで 彼女が振り返ったときの妙な表情の意味が。

でも 私はあなたを切ったりはしない。






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拍手コメントくださった・・・

★Sさんへ
そうそう、イルミネーションは誰かと一緒に見ると、キレイさが倍増して
より幸せな気持ちが増えてきますよね。
恋人に限らず、友達でも家族でもいいんです。
とりあえず1人じゃなきゃ・・・
Sさんもどこか見に行かれましたでしょうか~?
コメントありがとうございます。また来てくださいね。
2012.01.07 Sat l 揺さぶられる日々 l コメント (2) トラックバック (0) l top