生きてるから空気を吸うだけ、という歌があった。

空気を吸うだけだから
切なくないし 傷つかないし 悲しくもない という歌で

ミサトさんと付きあっているときは
この歌を自分の指針書にしようと思っていたくらい。
2人の結果がどんなことになろうと 切なくないし傷つかない。悲しくない。

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11月1日の午後3時に 京都に来て とミサトさんに言われたら
そりゃ行くしかないよね。
バイトさぼってでも 行くしかないよね。

でも本当のところは ずっと迷っていました。
行くつもりで家を出たけれども 京阪電車に乗り込むときも
平等院に近い宇治駅に着いたときも ずっと迷いました。

今の私なら きっと 30分前には平等院に着いていて
午後3時に彼女が来たら
「待ってたよー」と言って 茶だんごを差し出して
「まぁ食べて。食べたら京都観光やで。夜はもちろん先斗町(ぽんとちょう)やで」
って言って
絶対に彼女をあったかく迎えます。

当時の私には まったくそんな余裕がなく
行くのか、行かないのか
ミサトさんは私のことを切るのか、切らないのか
そんなことばかり考えて 思い詰めていて
常に ギリギリの状態だったように覚えています。


宇治駅から平等院まで歩くときには さすがに
もうここまで来たんだからと 心は決まっていました。

まだ約束の時間には早いから ゆっくり歩いて行こう。
午後3時ちょうどに着いて ミサトさんに会ったら何て言おう。
「ちゃんと来たでしょ」とか?

ほくそ笑みながら歩いていると 声をかけられました。
定年退職後に 京都観光を楽しんでいるような1人の男性でした。
平等院を観光した帰り 宇治駅までの道がわからなくなったらしく
駅までの道を尋ねられました。

口で説明しても おじさん、わからなそうだし
今から駅まで案内してあげて それから戻っても3時には間に合いそうだから
駅までご案内しますよ、と言って、男性と一緒に駅まで戻ることになりました。

ところが おじさんが歩くのが遅い。道端で写真撮影なんぞしている。
おじさん!いいから!早く!!

せっつきたいのを我慢し どうにかこうにか駅までたどり着いたら
記念に写真を1枚撮らせてください、と言われた。

いやっ…そのっ…記念撮影なんかしている場合じゃないし。
いいですからいいですから!ほんとにいいですから!と言ってるのに
ニコニコしたおじさんには通じず。
人を待たせてる、って言えばいいものを 断ることもできずに
固まった笑顔で 写真におさまるアホな私。

やっとおじさんから解放され 慌てて駅から平等院まで走る、走る。
拝観料を払って中へ入り 彼女に言われた鳳凰堂に着いたときには
約束の午後3時をとっくに回っていました。
ちょっと遅れました、とは言えないくらいの時間の遅刻。

そして その場所にミサトさんはいませんでした。
あたりを見回してもいない!
走りまわって探してみても いない!

慌てました。激しく後悔しました。
他の人に構わず ミサトさんのことだけを考えていればよかった!

泣きそうになりながら 探し回って
ああそうだ、帰ろうとして駅まで歩いているのかもしれない、と思いつき
平等院を飛び出しました。

駅まで夢中で走りました。
もしこのまま見つけられなかったら
私たちはいったい どうなってしまうんだろう?

駅に近いところまで来たときに
見覚えのある後ろ姿が目に入りました。
何も迷うことなく 彼女の肩に後ろから触れました。

突然、後ろから肩を叩かれたら驚くはずなのに
ミサトさんは ゆっくり振り返ったような気がします。

そのとき 彼女は笑っているようでも 怒っているようでもなく
かといって驚いているふうでもなく
妙な表情をしていました。

私はといえば 今にも嬉し泣きしそうな顔で
ミサトさんを驚かせてやろうという いたずら好きの子どもがするような
そんな顔をしていたと思います。

ミサトさんは小さく、ああ、と言っただけ。
私は走り続けたから 息切れのため、声も出せず。

「せっかくだから 鳳凰堂を見ていく?」
ミサトさんは 私が今 宇治駅に着いたと思ったらしい。
今度は2人でゆっくり歩いて 平等院へ戻りました。

受付で拝観料を払おうとすると 私の顔を見た受付のおばちゃんに
「あんた、さっき入ったでしょう? お金はもういいから」と言われました。
ミサトさんは怪訝そうな顔をしていました。

「ああ、私は遅れたけど鳳凰堂に行ってたの」
ここは ちゃんと言っておかなければいけない…

「時間どおりに鳳凰堂に着くはずだったんだけど
道を聞かれて駅まで一緒に行ってあげて
それで急いで戻って、探したんだけど 見つからなかったんだよ。
もしかしたら帰ってしまったかもって駅まで戻ったんだよ。
もう何往復したか わからないよ」

ミサトさんが やっと笑いました。
鳳凰堂の中も見たりして 観光らしくなりました。

その後 ご飯を食べたのか どうやって帰ったのか などは
あまり覚えていません。
いつもどおり どこかの駅で「じゃあまたね」と言って
それぞれの家に帰ったんだと思います。


約束の時間には遅れてしまったけれども
彼女の投げたサイコロの目が
私と彼女の繋がりを決める答えであって
それが彼女の求めている結果だったら 私も嬉しい。


帰り道の会話で ひとつ思い出したのは
私が約束の時間に来なかったことで 彼女は
「○○さん(アルの名前)の疑似体験ができた」と言いました。
「何、疑似体験って?」
「私があなたを切ろうとしたときに あなたが感じたことの疑似体験」

ああ、それで。
初めて納得がいきました。
駅の近くで 彼女が振り返ったときの妙な表情の意味が。

でも 私はあなたを切ったりはしない。






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拍手コメントくださった・・・

★Sさんへ
そうそう、イルミネーションは誰かと一緒に見ると、キレイさが倍増して
より幸せな気持ちが増えてきますよね。
恋人に限らず、友達でも家族でもいいんです。
とりあえず1人じゃなきゃ・・・
Sさんもどこか見に行かれましたでしょうか~?
コメントありがとうございます。また来てくださいね。
2012.01.07 Sat l 揺さぶられる日々 l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

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2012.01.08 Sun l . l 編集
Re: No title
> 非公開さん

ご、ごめんなさい!
ほんまにアホなんです、私。
お人よしって思ってます。

たしかに非公開さんより年上です。
ですがお叱りのコメントは ありがたく頂戴します。
むしろ もっと言ってください。
鍵コメにされたなんて もったいない!
私は公衆の面前で叱られたいんです(ドM)

話がそれましたが…
お人よしを発動したのは やはり寸前まで迷ってたからだと思います。

コメントをありがとうございました。
またお越しくださいね。
2012.01.08 Sun l アル. URL l 編集

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