休日に 自宅から近い公園に行った。

天気はまあまあ。
冬の一日ではあったが 気温は高めで
日の当たっているところなら コートを脱いでも寒くはなかった。

その公園にはとても広い芝生の広場があった。
広場の端から端まで歩いてみたくなって
芝生の上に足を踏み入れた。

広場のちょうど真ん中あたりには 大きい木が2,3本立っている。
私は その木のほうに向かって歩いていった。

歩いているうちに 自分の中の妙な感覚に気づいた。

大きい木まで まだ距離があるというのに
私には その木の根が隆起して 地面からむき出しになっている様子が見えた。

大木だから その根もかなり太い。
それが土の上に投げ出された足のように横たわっている。

まだ見ていないのに 木の根が見える。

===

「バイトがなくなったから 付き合って」

そんな呼び出しがあったから
私は喜び勇んで彼女のもとに駆けつけた。

今日の午後は講義もないし
私のバイトも遅番だから 夕方までは一緒にいられる。

短い時間だけれども
いつも忙しい彼女に 突然できた空き時間だから
とても貴重だ。

「今日は家庭教師、キャンセルになったの?」

「うん。あなたは何時まで大丈夫なの?」

「今日は遅番だから、夕方まで空いてるよ」

「どこか行く?」

「どこでもいい」

「じゃ、電車乗って行こう」

彼女に促されて 大学の最寄り駅から1駅分だけ電車に乗る。

降りた駅から歩き 幹線道路を越えて住宅地を抜けると
とても広い公園の入り口に着いた。

「ここ、前から一緒に行きたいって言ってたところ」

「あ、そうなんだ。ずいぶん広いね」

前に何度か「広い芝生の上でのんびりしたい」と彼女が言うのを聞いた。
なかなか時間がなくて実現しなかったが
今日やっと来ることができた。

公園はほどよく整備されていて
彼女が望んでいた芝生の広場もちゃんとあった。

芝生の真ん中にぽつんと大きな木が立っている。
彼女と私はその木まで歩いて行った。

「ここ、座ろうか」

彼女が指したところには 大木の根っこが地面から顔を出していて
ちょうど人が座れるような感じになっている。

私と彼女は近くも遠くもないといった距離で座り
少し話をした。

冬に入りかけの頃の昼下がり 決して暖かいとはいえない気温だが
彼女と同じ場所にいるというだけで
寒いとか暑いとかそんなことは気にならなかった。

ただ バイトに行かないといけない時間が近づくのが嫌だった。

「そろそろ行かないといけない?」

彼女も この貴重な時間が終わってしまうのを残念がっているような気がした。

「ちょっと待ってて」

私は 彼女に聞こえないところまで行って
バイト先に電話した。

「今日、遅番なんですが、大学のゼミが少し長引いてて行けないかもしれません」

「いいよー。じゃ、代わりの人探してみるから。もし来られそうなら教えて」

バイト先のマネージャーさんはふだんは怖い人なのに
このときはなぜか優しかった。

嘘の理由を言うことにも気がとがめたが
マネージャーさんの優しい言葉に さらに胸がズキズキした。

彼女のもとに戻り さっきと同じ場所に腰かけた。

「大丈夫?」

「うん」

嘘を言ってはいけないという当たり前の気持ちと
嘘を言ってでも できるだけ長く彼女と一緒にいたいという正直な気持ちがごちゃまぜになって
私はぼんやりと芝生の広場を眺めた。

彼女も 私とできるだけ長く一緒にいたいと思ってくれているのだろうか。

時間が限られているなら
できるだけ多く彼女の声を聞きたい。
できるだけ近くに座りたい。


もう一度「遅れて行きます」と連絡を入れ
定時よりだいぶ過ぎてからバイト先に行った。

マネージャーさんは既に退勤していて
早番のパートさんが私の代わりに残っていてくれた。

私はパートさんに何度も謝って 遅番の勤務に入った。

===

同じ公園というわけでもないのに
広い芝生があって 大きい木が立っていて
昼間はコートなしでも大丈夫なくらいの気温だと

くじを引き当てるように
頭の中の引き出しが開くらしい。


開いた引き出しを また そっと閉める。






(そんな経験はありませんか?)
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2014.12.25 Thu l 今日思うこと l コメント (4) l top

コメント

最近授業で見たのですが、古今集に「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする 」という歌があるそうで、何だか今日のお話と近いように思いました。

気持ちが揺さぶられるような思い出も、いつか過去の1コマとなりますか?
2014.12.25 Thu l まめ. URL l 編集
きっかけ
素敵な時間。
温度のある思い出。

私は匂いが連れてきてくれます。
音も少し、、雨の日は特に。

…やっとコメント出来ました。
まだ覚えていてくださるかしら。
 
2014.12.25 Thu l 小粒. URL l 編集
まめさんへ
お久しぶりです。
まめさんらしい、嬉しいコメントをありがとう。

過去にあったことは消えてしまうわけでなく
引き出しにしまってパタンと閉めただけだと思っています。
いつでも開けられるけど 開けない。

まめさんにも過去の1コマとなるような思い出があるのでしょうか?
2014.12.28 Sun l アル. URL l 編集
Re: きっかけ(小粒さんへ)
お久しぶりです。
年内にもう一度、お茶をすする会を催したかったのですが、果たせませんでした。
次に開催するときには ぜひご参加いただき、お話をお聞かせください。

小粒さんの思い出の中の匂いとは どのようなものなのでしょうか?
2014.12.28 Sun l アル. URL l 編集

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