灼熱、である。

自分の体が 燃えているようだ。

ここは いつもの無味乾燥な職場。
ただ座っているだけなのに カラダが熱い。


数日前に フジタさんとの熱い夜を過ごし
まだ体が火照っているのだろうか。

それとも フジタさんから
仕事に対する熱い情熱の言葉を聞き
私自身も 仕事に燃える「熱い女」となったのだろうか。


・・・
熱い。
熱すぎる。


「熱いよね?」

「・・・」

「アル田さん、アル田さん!」

「え?」

「熱いよね?」

「あ! はい、そうですね。熱いですね」

ハッと我に返る。
隣りの席のクリタさんが 私に話しかけていたのだった。

「アル田さん、あれですよ、あれ」

クリタさんが指差すほうを振り返った。
私の席の真後ろに ガスストーブが鎮座していた。

な、なんや、これ?

この IT業界最前線の(←言い過ぎ)職場で
なぜ今頃 ”昭和”を髣髴とさせるガスストーブが。

どうりで 体が熱いはずだった。
あんな大きなガスストーブを 真後ろから焚きつけられたら
暑いに決まっている。

仕事に燃えて「熱い女」になったのではなかった。
ただ「暑い」だけだったのだ。

クリタさんは 喋り続けていた。

「M部長が、”女性は寒がりだろうから”って
倉庫からストーブを引っ張り出してきたみたいよ。
でも 私、さっきからずっと暑いのをガマンしてるの」

「ほんまに暑いですね」

「ねぇ、消してもいいんじゃない?」

「う~ん、でもM部長がわざわざ持ってきてくださったんですよね?」

「だって、暑いじゃない?」

「消したらM部長、気を悪くされるのではないでしょうかね?」

「でもエアコンの暖房も効いてるから。今は寒くないでしょ?」

「・・むむ・・」

当の本人のM部長は ガスストーブの向こう側、
つまり 私の席の後ろに座っている。

そこから 部下(クリタさんや私)の仕事ぶりを監視しているのだ。

チラリと振り向くと M部長は机上の書類に眼を通しているようだ。
クリタさんと私が こそこそと喋っていることには気づいていない。

「今のうちに消しちゃおう」

「あ、はい。では・・・」

私はそろそろと立ち上がって
ガスストーブのスイッチを切った。

M部長が下を向いたままだったので
ホッとしながら自分の席に戻る。

クリタさんも 熱源がなくなり
暑さもましになったのか
前を向いて仕事を再開した。

私も 仕事に対して よく言えば「クール」
率直に言えば「こんな仕事、面倒くさいよなぁ」と すっかり冷え切ったアル田に戻り
キーボードをカタカタと叩く作業を開始した。


「なんやー、アル田さん、暑かったんかー?」

ギクリ。

頭上から降ってきた声に 慌てて振り返った。
M部長が背後に立っていた。

「ええと、その・・あ、あつ・・暑かったもので・・」

隣りのクリタさんは 我関せずといった感じで
パソコンのモニターを注視していた。


「なんやー、暑かったら消してもええんやで」

「は! は・・はい・・(だから消したやん)」

「フジタさんはもっと早くに消してたで~」

「え?」

「フジタさんは昼過ぎには すぐに消してたなぁ」

まさか こんなところでも
前任のフジタさんと比較されるとは。

フジタさん・・・

あなたは M部長のご好意でもバッサリ断ち切って
暑すぎたらストーブは消す、という当たり前の行為を貫いたのですね。

それに比べて 私、アル田ときたら・・

ストーブを消してしまったら
せっかく倉庫から引っ張り出してきて
寒がりであろう女性陣の席近くにストーブを設置してくださったM部長が
ガッカリしないだろうかと 余計な気遣いを・・

いや 気遣いと言うよりも
M部長のご機嫌を損ねないだろうか、という
いやらしい考えを・・・


「アル田さん、暑かったら消したらええから(ウッシッシ)」

見上げると なんとなくM部長は笑っているように見えた。


うずくまって ガスストーブに着火し
「ほれほれ~ 暑いやろ~ 暑いやろ~ ウッシッシ」と
女性の席近くに 熱源を仕掛けるM部長の姿を想像した。

こ、これはハラスメントか。
それとも 部下を試練の場に置き
そこから這い上がってくる者のみを重用しようというのか。

そうなると フジタさんは
M部長の 「ウッシッシ灼熱地獄」を一蹴した
「できる女」である。

私は・・私は・・
やはりフジタさんには とても太刀打ちできない
「ダメな女」なのか。


いや、ちょっと待て。
M部長の「灼熱地獄」に 午後3時まで耐え抜いたアル田が
真の勝者ではなかろうか。


・・・
・・・
別に フジタさんと私、勝負している訳ではなかった、そういえば。

そもそも 数日前に
フジタさんとの暑い、いや熱い食事会を経て
「フジタさん」という言葉に敏感になりすぎていたようだ。

あの夜。
食事会のあった、あの夜。

===

そうそう。
そういえば 私は両方の鼻の穴に 白いガーゼを詰めたままでした。

話は 病院の待合室に戻ります。

「麻酔が効くまで そのままで」

男性医師にそう言われた私は
診察室から待合室に追い出され
鼻にガーゼを詰めた状態で じっと座っていました。

ガーゼを気にしていたら 余計に目立つだろうから
私はバッグから小説本を取り出して
膝の上において読み始めました。
これなら うつむいて ただ本を読んでいる人に見えるはず。

口を半開きにして呼吸しながら
小説本を数ページくらい読み進んだとき
鼻腔の壁を 鼻水がたらりと垂れる感触がありました。

慌ててティッシュペーパーを出してきて
鼻の穴を押さえました。

うぐぐ。
ガーゼを詰めていたって 垂れるものは垂れる。
麻酔が効き始めていても 水の垂れる感触はわかるもの。

片手に小説本、片手にティッシュペーパーで鼻を押さえ
非常に見苦しい格好で
私は待ち合いの席で耐え続けました。

は、早く診察室に呼び戻して!


これが数時間前のアル田です。

駅の改札口で 少々気取った格好で
フジタさんが来るのを待ち

遠くからフジタさんが「待たせてごめんなさい!」と言いながら
近づいてくるのを見て ドキドキしながら
「いえ、大丈夫です」と 上ずりそうになる声を抑えて
あくまでも落ち着いた態度を装う

その数時間前の姿が この、見苦しいアル田です。


「アル田さん、診察室にお入りください」

神の声が聞こえたので
「ふぁ~い~」と返事をし
フラフラと診察室に入りました。


男性医師の前に座りました。

「すぇんすぇい、ふぁ、ふぁなみずが出てまふ・・」

「ああ、そうでしょうねぇ。麻酔も効いてるしね」

鼻を押さえていたティッシュペーパーをはずし
それを捨てるところがなくて 仕方なく手にフンワリと握ったまま
男性医師のされるがままになりました。

「ここは? ここは? 痛くないね?」

「ふぁい、痛くありまふぇん」

「じゃ、処置します」

コードの繋がった金属製の器具を鼻の穴に入れられ
何の音もしないままに 何かが行われました。

「はい、終わりー」

ええっ? もう!?

「しばらく麻酔が効いたままで 気になるかもしれませんが
そのうち戻りますからね」

「は、はぁ・・」

「じゃ、後はクスリを出しときますね」

診察室を出て 精算を待つ間
麻酔が効いて 抑制の効かない鼻の奥から
鼻水がタラタラと流れ続けました。

これ、鼻血よりもひどくないか?

食事会のときに 鼻血がたらっと出たら格好悪いと心配していましたが
鼻血が 鼻水に変わるだけになりそうです。

麻酔って 何時間後に切れるの・・?

先生! 先生!!


===


この数時間後には
駅の改札で ハスに構える 気取ったアル田です。


(とりあえず 鼻の処置には要注意です)
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2013.01.27 Sun l フジタの人事-仕事のできる女 l コメント (13) l top

コメント

No title
ぎゃーー!また鼻の話ーーー!!
麻酔がお食事会に差し障りはなかったのか、
それが気になります。
そして、その続きも。
M部長さん、お優しいですね^^
灼熱地獄ですが・・・(笑)
2013.01.28 Mon l 納. URL l 編集
No title
続き・・・気になりすぎます。笑

早めの執筆活動お待ちしております。
(`・ω・´)
2013.01.28 Mon l まあこ. URL l 編集
なんという
なんというひどい仕打ち!(笑)
灼熱地獄に見事打ち勝ったアルさん…。
私たち読者には、寸止め地獄という試練をお与えになるのですね(爆)

鼻水ではなく、鼻血が出そうですよ。
待ち遠しくて!
ちなみに、鼻は花粉対策ですか?
私はやってみたことがないのですが、
施術後は痛まないのでしょうか?
2013.01.28 Mon l ♪ねこ♪. URL l 編集
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013.01.28 Mon l . l 編集
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013.01.28 Mon l . l 編集
納さんへ
M部長は優しいのだかなんだか、よくわかりません。
後ろのガスストーブも 寒い日にほんわかあったか~ ではなく
ゴーゴーと燃えさかる炎・・
『お仕置き部屋』の風情です。

> ぎゃーー!また鼻の話ーーー!!
> 麻酔がお食事会に差し障りはなかったのか、
> それが気になります。
> そして、その続きも。

続き、書かんでいいって言ったじゃないですか。
ご無体な・・・
2013.01.28 Mon l アル. URL l 編集
まあこさんへ
まあこさん、お久しぶりです。
(と言いますか、私の更新自体がお久しぶりです)

> 早めの執筆活動お待ちしております。
> (`・ω・´)

あんまり期待されると 逆に申し訳なく・・
まぁ 地味~に続けてみますね。
2013.01.28 Mon l アル. URL l 編集
Re: なんという(♪ねこ♪さんへ)
> 私たち読者には、寸止め地獄という試練をお与えになるのですね(爆)

寸止め地獄・・・(笑)
アル流 焦らしのテクニックです。
焦らすほどの中身はありませんが。

鼻の処置はですね、毎日鼻血が止まらず気になってたので
思い切って病院に行った訳です。
そしたら こんなことになってしまったのでした。
花粉症ではなく 鼻の粘膜が弱いそうです。
鼻の皮の厚い女にならなければ。

2013.01.28 Mon l アル. URL l 編集
非公開HIさんへ
いえいえ インフルエンザではありません。
ご心配おかけして申し訳ありません。

いや、穴っておっしゃるから・・
てっきり あのことかと。
あの穴・・鼻の収拾はついたのでしょうか?
果たして!?

2013.01.28 Mon l アル. URL l 編集
Re: アルさん、初めまして(非公開HAさんへ)
はじめまして。

キノコ栽培・・・
できたらすごいですね。
売りに行きますよ?笑

ええーっとHAさんのお名前 どこかで見たような気がします。
どこだろう・・・?
2013.01.28 Mon l アル. URL l 編集
あ・・・そうでした^^;
焦らしプレイに慣れてなくて・・・
自分の書いたことを、
ころっと忘れてました(笑)
えへへ。
2013.01.28 Mon l 納. URL l 編集
納さんへ
焦らしプレイというほど 中身はないのですが
強化週間ということで がんばってみます。
どうぞ温かい眼で見守ってください。

・・・あ、忘れてたのか・・・
2013.02.01 Fri l アル. URL l 編集
拍手コメントくださった・・・
ありがとうございます。
私が更新しなくても 他にたくさんの人が書いてくださっています。
もはや 沈黙することを求められるアルです。
2013.02.01 Fri l アル. URL l 編集

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