「過去の話の続きも書いてくださいよ」

グローブとボールの入った袋をポンポンと叩きながら
アサダさんは言いました。

さっきまでアサダさんと2人きりで
夢中になってボールを投げ続けたおかげで
明日は絶対、筋肉痛になると思われました。

「過去の話かぁ・・」

こうやってブログのリクエストをされるのは久しぶりだな~。

アル田だと フジタさんの話に終始してしまいそうなので
ここはアルさんの過去の話をしよう。

アルの過去の話。

今は仙人と呼ばれるアルも
3000年くらい前には 宙に浮くことなく ちゃんと地面に足が着いていました。

そしてあのときは
地面に、というより どん底でした。

===

「あなたが幸せになるのを祈ってる」

この人は なんて自分勝手な言い方をするんだろう。

今までずっと 好ましいと思っていた人の顔が
まったく知らない別人のように見えた。

なぜだろう。

私の好きな人の顔を もう一度よく見た。
やっぱり別人のように思える。

じっと見ていると 周りの景色がどんどん白くなって
自分がどこにいるのかもわからなくなる。

「もう一緒には いられないよ」

ああ、そうか。

いつも近い距離で見ていたから
この人の顔は この人だと認識できていた。

今は2人の距離が離れているから 別人の顔だ。
こうも違って見えるものなんだ。

幸せだって?

この人から離れて
私は幸せになれるんだろうか。

どう考えても
まったく現実的ではないし
こういうのを「失意の底」っていうんじゃないの?

無表情のまま 彼女は続けて言う。

「一緒にはいられないけれども
 あなたの幸せを願ってるよ」

幸せじゃなくてもいいから
近くにいさせてくれないかな。

私も負けじと自分勝手に思う。

お願いだから
私から 離れていかないでよ。





彼女の言った「幸せ」と
今 ここにある「幸せ」は
一緒のものなんだろうか。




(アル3000年の歴史 その1コマ)
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2016.04.30 Sat l 過去にあったこと l コメント (2) l top
仙人だとか ツチノコだとか
およそヒトではない呼ばれ方をしているアルですが
まれに 生身の人間であるときもあります。

あのときもそう。
私は 血の通った生身の人間でした。

===

ヨウコさんは物静かな女性でした。

ある知り合いを通じて ヨウコさんと出会ったわけですが
とても真面目そうで 向かい合って話していると誠実な人柄が伝わってきました。
いい友だちになれる予感がしました。

はじめはぎこちなく会話をしていた私とヨウコさんは
そのうちに2人きりで飲みに行くような間柄になりました。

当時 ヨウコさんは女性とつきあっていましたが
その女性とは別れようとしているとヨウコさんは言いました。

2人で飲んでいると 必然的に私が
ヨウコさんの抱えている 彼女との関係での悩み事を聞くことになり
私は真剣に受け止めようとしました。

何度か ヨウコさんの悩みの相談にのっているうちに
また私のいつもの病気が出てきました。

ヨウコさんと何杯かのお酒を飲んだあとに
離れがたい なんだか寂しい という思いに駆られ
かといって どうしていいのかもわからず
もやもやと すっきりしない気持ちで別れました。

無性に離れがたい衝動に駆られるというほどではないにせよ
このままでは物足りない。
何かが欠けてると感じました。

これはきっと 幼稚な分離不安だ。

そう 自分に言ってみても
次にヨウコさんと会える日が とても待ち遠しく思えます。

ヨウコさんの存在が少しずつ大きくなっているのです。

まさか・・?
そんな簡単に?

ヨウコさんはきっと私のことを友だちとしか思ってない。

私だって 恋人はいなかったけれども
ヨウコさんをその対象として見ようとしていたわけでもない。

ただ
血の通った生身の人間だから。


こういうときの気持ちって 本当に厄介だなぁ・・


(あのときに書けなかったゴーサインの続きの話です)
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2015.07.19 Sun l 過去にあったこと l コメント (2) l top
「髪、乾かしてあげる」

彼女はそう言うと 自分のバッグからドライヤーを取り出した。

私はその様子を少し離れたところからぼんやりと見ていた。

以前 彼女から
「ここの髪をこうすればいいよ」と言われて
髪の毛をクシャクシャと触られたことがあった。

彼女は私の髪型が気に入らないのかもしれないが
無防備な状態で 人から髪を触られるとドキッとする。

まして 長い間恋焦がれていた彼女に触れられたら
全身 鳥肌が立ってしまう。

この状況を どうやったら免れるだろう。

昨日の晩まで 三日三晩
彼女に対して自分の気持ちをさらけ出してきた。

車の後部座席で 並んで座っているときでさえ
うっかりすると 彼女にもたれかかりそうになっていたのに
また髪に触れられでもしたら
自分が何をするかわからない。

それとも 彼女も私に何か思うところがあるのだろうか。


「ここへ来て座って」
彼女が自分の前の畳をトントンとたたくので
私は観念して 歩み寄った。

「そっち向きで座って」
「はい・・・」

彼女に背を向けて座ると
彼女が両膝をついて後ろに立つ気配を感じる。

ドライヤーのスイッチが入れられ
髪の毛に温かい風が当てられた。

彼女の指が 私の髪に触れ
自分の好みの方向へ流すように 何度も撫でる。

振り返れば 彼女はすぐそこにいる。
振り返ってはいけない。

落ち着いて・・落ち着いて・・・

ふすま1枚隔てて、とまではいかないが
近い部屋には 車に同乗してきた男2人がいる。
ついさっきまで 2人の会話する声が聞こえていたから
ドライヤーの音はもちろん それ以外の音も2人にはわかるだろう。

今 振り返ったらどうなるのか
考えただけでも 胸が急激に締め付けられた。

呼吸をするのを忘れてしまいそうだった。
息苦しくなって焦り 肩を上下させた。

こんなに高まっている自分を 彼女に見られたくない。
後ろから見たって すぐに見破られてしまうだろう。

落ち着いて・・落ち着いて・・・

彼女の指が離れていき 今度はヘアブラシの毛先を感じた。
時折 その毛先がうなじに当たり
思わず声を上げそうになる。

ブラシは何度も何度も
執拗に 髪の中に入れられているような気がした。
その甘い感触に 目を閉じて集中しようとした。


永遠に続くかと思われたドライヤーの音が突然止んだ。

「終わったよ」

はっとして振り返ろうとしたが
それより先に 彼女の手が 私の肩に置かれた。

私は驚いて体を固くしたけれども
肩の重みは一瞬だけで すぐ離れていった。


それ以上 近付くこともなく
4日目の晩を過ごした。

翌朝 宿で用意された純和風の朝食をとり
また1台の車で 大橋のふもとの町を発った。

朝の日差しの下で見ると 後部座席に座っている彼女は
昨夜の 甘く、胸がキリキリとするような存在ではなく
親しげな友人でしかなかった。

きっと 三日三晩 連続で伝えた私の気持ちに対する
彼女の最大限の好意が
肩に置かれたあの手の感触だったのだろう。


かなり後になってから 彼女にこの時のことを聞いてみたが
熱くなっていたのは私だけで
彼女は事が起こりそうだとは 意識していなかったようだ。

あの時 何も起こらなくてよかった。





結局 だいぶたってから
彼女と私は 付き合うようになったのだけれども。



(次の瞬間 何が起こるかなんて想像もつきませんね)
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2012.12.11 Tue l 過去にあったこと l コメント (9) l top