fc2ブログ
1台の乗用車に
男女4人が乗っていた。

運転席と助手席には男が座っていた。

運転席の男は 少々荒っぽい運転だったが
正確なハンドル操作で速度を上げた。

隣りにいるのは もともと寡黙な男で
今はさらに その存在を消そうとするかのように 黙りこくっていた。

私は後部座席で体を固くしていた。


この車は 行き先が決まっていなかった。

それなのに 街灯のほとんどない 暗い田舎道を飛ばしていくのは
車内の疲れきった空気を何とかして振りほどきたいという
私たち全員の思惑を表すようだった。

だが私は 早く私たち4人が落ち着けるような場所を探すことよりも
同じ後部座席で ほとんど距離をおかずに座っている彼女の気持ちの行方が
気になって仕方なかった。


昨晩は 彼女に向かい
自分の心のうちを すべて見せた。

その前の晩も
もう一つ前の深夜にも

私は 言葉にこそしなかったが
彼女の前で 自分の気持ちを隠そうとしなかった。

彼女は驚かなかった。
むしろ待っていたのかもしれない。

私が彼女に恋焦がれていた期間は とても長い。

===

3泊4日の日程で 私たち4人はある研修に参加していた。
その研修には全国各地から参加者があり
4日間のカリキュラムはハードなものだった。

夜になると 疲れて部屋のベッドに倒れこみたいところだが
毎晩 私は彼女に会いに行った。

部屋は別々であったけれども
私が呼ぶと彼女は出てきてくれる。

私は順調に 彼女に自分の気持ちを見せた。

順調に、という言葉はおかしいかもしれないと思う。
何もかもうまくいくという保証はなかったから。

確実なことといえば
彼女の恋愛対象が異性であるということ
私がどうしようもなく 彼女を好きになっているということ
そして 彼女が私の気持ちに薄々気付いているということ。

そういった意味では 順調に、という言葉がぴたりとはまる。
あとは 彼女の出方を待つだけになった。


研修が終わり 私たち4人は1台の車に乗って帰ることにした。
地元に帰るには 大橋を1つ渡らなければならない。

4日目の研修が夕方まであったのと
移動距離そのものが遠かったせいもあり
早々に その日に帰り着くのは無理、と判断し
大橋のふもとの漁港で 宿を探した。

適当に走れば見つかるだろうと 気楽に考えたのが間違いで
観光名所にもなるような大橋なのに
このさびれた漁港には
簡単に泊まれるような宿がなかった。

運転席の男が言った。
「こうなったら 男女2人ずつ分かれて ラブホに行くか?」

人家のない 暗い道の先には それらしき看板が出ている。
それもいたしかたないとは思うが
私たち4人は どの組み合わせにもカップルはない。
できれば それは避けたい。

しばらく走るうちに 彼女が1軒の宿を見つけてくれた。
彼女はその宿に電話し 今から4人を泊めてもらえるかを聞いた。

「食事は用意できないけど、泊めてくれるって」
「よかった! このまま夜通し走って帰らないといけないかと思ってた」

彼女と運転席の男は 宿までの道順を確認しあい
助手席の男と私は 黙って2人のやりとりを聞いていた。

カップルはない、と言うものの
微妙な間柄の2人はいた。
つまりこの黙りこんでいる2人。

だが その話を混ぜるとややこしくなるので ここでは省略。


やっと 1軒の小さな宿に着いた。
親切そうな宿の主人が 部屋へ案内してくれた。
当然ながら 男2人と女2人に分かれて 部屋を使う。
食事はなくても 風呂と布団があるだけで十分だった。

それぞれが風呂をすませ 明日の出発の時間を決めたら
あとは部屋に入って寝るだけになる。

彼女と2人きりで1部屋に泊まるという 思いもよらない展開に
私は極度に緊張した。

なんとなく
彼女も緊張しているように見えた。

濡れた髪をタオルで拭いながら
このまま布団に入って寝るだけだよな、と自分に確かめた。

「髪、乾かしてあげる」
彼女がそう言って 突然動いたので
私はビクッとした。



(こんな場面、あるある!という方は合いの手を)
にほんブログ村 恋愛ブログ 同性愛・ビアン(ノンアダルト)へ

2012.12.06 Thu l 過去にあったこと l コメント (15) l top

コメント

No title
なっ・・・ないです!
こんなシチュエーション経験ないです。
パンツ前後反対もまだ無いです。
でも、上着のボタン掛け違えてなんか変ですねといわれたり、
ズボンのチャック全開で一日過ごすという経験はあります。
2012.12.07 Fri l 納. URL l 編集
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012.12.07 Fri l . l 編集
これは・・・
私も納さんと同じく、ないです!
ちなみに、パンツなら前後反対も表裏反対もございます(笑)

新しいシリーズなのでしょうか?
ドライヤー・・・長い間恋焦がれていた人の指が、
自分の髪の間に差し込まれる・・・
そんなシチュエーション、考えただけでドキドキします。
髪、伸ばそうかな←もう遅い?(笑)
2012.12.07 Fri l ♪ねこ♪. URL l 編集
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012.12.07 Fri l . l 編集
No title
な…ないですよ!!
この展開で同じ部屋に泊まることはあるけど
髪の毛とか!髪の毛とか!!ないないないない…
ど…どういうことですか??
アルさんの気持ち感ずいておいてのそれ??

わたしなら   パニック過ぎて拒否しそうです。…どきどき。
2012.12.08 Sat l 侍たろー. URL l 編集
納さんへ
すごいですね。
チャック全開ですか。
冬場は特に冷えますので ご注意ください。
2012.12.08 Sat l アル. URL l 編集
非公開Wさんへ
パソコンに接吻、ですか。
そんな褒め言葉を初めて聞きました。ありがとうございます。
でも パソコン内部に 私はいませんから。笑

ヤマダ君でもハラダ君でも なんでもいいです。
載せてくださってありがとうございます。
ではメガネ女子オフ会をよろしくお願いします!
2012.12.08 Sat l アル. URL l 編集
Re: これは・・・(♪ねこ♪さんへ)
♪ねこ♪さん、髪を伸ばしてみませんか?
そして恋人に乾かしてもらいませんか?
きっと甘く優しい時間が訪れるはずです。
邪魔するものは誰もいません。
さあ!
2012.12.08 Sat l アル. URL l 編集
非公開MOさんへ
はじめまして(←でしたっけ?)

もちろん 好きになった人全員に告白しているわけではないです。
勇気というのかな~ 要するに捨て身なんです。
2012.12.08 Sat l アル. URL l 編集
侍たろーさんへ
どうしてこんな展開になったのか?
それは続きを読んでくださったら なんとなくわかるかもしれません。

拒否・・・もったいない・・
2012.12.08 Sat l アル. URL l 編集
これからも応援してます
2012.12.11 Tue l 惠藤憲二先生. URL l 編集
素晴らしいですね
2012.12.11 Tue l IT探偵 god. URL l 編集
Re: タイトルなし
ありがとうございます。巡回ご苦労様です。
2012.12.11 Tue l アル. URL l 編集
Re: タイトルなし
ありがとうございます。巡回ご苦労様です。
2012.12.11 Tue l アル. URL l 編集
拍手コメントくださった・・・
★Yさんへ

> まだないので、あったらいいな!!ということで(笑)

まだない、ということは いずれ起こることもあり得るというわけですね。

ところでYさん、勉強の方はいかがでしたでしょうか?
資格試験(でしたっけ?)は万事順調でしたか??

2012.12.14 Fri l アル. URL l 編集

コメントの投稿